ざわざわした都会の
駅近くのデパートの前で彼を待った。
老若男女が行き交う街。
人の波と乗り物の音と、
湿った風の中で、
彼を待った。
この都会の
誰もわたしを気にしていない街で
このまま埋もれて生きていきたいと、
一瞬思った。
今を捨てて、
しがらみから逃れて。
お金がなくてもいい、
アパート暮らしでもいい、
車など持たなくてもいい。
新しい洋服もいらない。
ミニマムな暮らしをしながら
彼と同じ空の下にいたい。
そんなことできるはずもないのに。
などと考えながら
彼を待っていた。
彼は向こうの方から歩いてくるはず。
会社は確かあっちの方だから…
ひと月と少しぶりにデートだし、
6月なのに夏のように暑かったから、
湿度もあって髪は乱れていた気がした。
自分が映る柱を見ながら髪を直していたら
気がついたら彼が後ろから歩いてきていた。
わたしが先に彼を見つけたかったのに、
彼に先に見つけられちゃった。
「やぁ。」って言ったのか
「おい。」って言ったのか
わたしの名前を読んだのか
聞き取れなかったけど、
彼がなにか言ったような気がした。
わたしは、
お疲れさまです♡と言ってペコリと頭を下げた。
いつ会っても
久しぶりに会っても
彼といることが自然と思える。
お互い、
髪が伸びても
白髪が混じってきても
また、髪を切ったり
痩せたり太ったり
日焼けしたり白くなったりしても
違和感なく自然にすっーといつものふたりに戻れる。
幸せ気分になれる。
ウキウキ…というよりも
噛みしめる嬉しさ…みたいな。
「忙しかったんだ、今日は…」と彼。
多分、わたしとの時間のために
仕事詰め込んできたのかなぁ、と思った。
コロナも落ち着いてきて
都会の会社も通常営業に戻ってるみたい。
歩きながら(いつも早足なふたり)
お店を目指した。
今日はお寿司を食べさせてくれるんだって。
取引先の接待に使うようなお店…
ビアホールでもいいのにって、
わたしは言ったのだけどw
もう予約してくれていた。
Source: 女坂
