“大黒様”に決められた劇的ゴール。若き日の鄭大世が埼スタで見た悪夢。
2020年4月24日スポーツ新聞一面を飾ったこの大きな見出しが今も忘れられない。
今から15年前の2005年2月9日、ドイツワールドカップ(W杯)アジア最終予選の日本代表対朝鮮民主主義人民共和国代表(以下、北朝鮮代表)の試合が、埼玉スタジアムで行われた。“ジーコジャパン”の最終予選初戦の相手は古豪・北朝鮮代表だった。
北朝鮮が国際試合にあまり姿を見せないことから、その実力が未知数であること、謎めいていることで“ダークホース”と表現する記事が多く散見された。
この頃から北朝鮮サッカー界にも徐々に変化が訪れてきており、当時の顔ぶれにはロシアのFCロストフなどでプレーしたホン・ヨンジョのほか、在日コリアンJリーガーの安英学(当時名古屋グランパスエイト)と李漢宰(当時サンフレッチェ広島)がメンバー入りしたことで、それなりに力はあったはずだ。
同じ在日である筆者も、特に安英学と李漢宰の2人には活躍を期待せずにはいられなかった。
◆北朝鮮の希望を打ち破った大黒投入。
だが、試合会場は北朝鮮にとって完全アウェイの埼玉スタジアム。
その雰囲気に飲まれるかのように北朝鮮は開始早々の前半4分にMF小笠原満男に直接FKを決められた。
当時のFIFAランキングでは日本19位、北朝鮮97位。実力通りの結果になりそうな気配を感じつつ、「そう簡単に日本には勝てないか……」と思っていた。
だが、戦況は一変する。
北朝鮮は球際の激しさ、豊富な運動量で日本に追加点を許さない。それどころか、決定的なチャンスを幾度か演出し、日本ゴールを脅かす。
「これはもしかして……」
予感めいた閃きは現実となった。
61分、左サイドからDFナム・ソンチョルが左足を振り抜いて同点ゴールを決める。
日本に在住する在日コリアンの大応援団が歓喜に沸く。記者席すらも完全アウェイの中、筆者は周りの空気を読めずに立ち上がって喜んでしまった。
1-1の同点のあと、ベンチに座るジーコ監督には焦りが見え始めていた。
途中からFW高原直泰、MF中村俊輔をピッチに投入するも、ゴールを奪えない時間が続く。
残り約10分。ここでジーコ監督は最後の切り札を使う。投入されたのは、FW大黒将志だった。
◆映画のワンシーンのような幕切れ。
このまま引き分ければ、北朝鮮にとっては大金星と言えただろう。一方で日本が格下の北朝鮮にホームで引き分けや負けは許されなかったに違いない。
緊迫する中で迎えた後半アディショナルタイム。このまま終わってくれと心の中で祈りつつ戦況を見守ったが、最後の最後で悪夢が待っていた。
右サイドから小笠原が上げたクロスをGKがパンチングではじく。こぼれ球をMF福西崇史が前にはたくと、そこにいたのが大黒。振り向きざまに左足で合わせると、あたりそこねたものの、ボールはゴールに吸い込まれた。
大黒の劇的なゴールによる、映画のワンシーンのような幕切れ――。ピッチに倒れこむ北朝鮮選手の姿を茫然と記者席から眺めつつ、一方で日本サポーターの歓喜と熱狂ぶりを目に焼き付けたものだった。
翌日の“大黒様”のスポーツ紙の見出しが目に飛び込んでくる。日本のピンチを救った大黒を七福神の“大黒(だいこく)様”にかけていることに、「うまいこと言うな」と思いつつも、気分が晴れることはない。
>>2以降に続く
2020/04/20 12:00
Number
https://number.bunshun.jp/articles/-/843240?page=1
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Source: samuraigoal
“大黒様”に決められた劇的ゴール。若き日の鄭大世が埼スタで見た悪夢。